神戸地方裁判所 昭和61年(行ウ)32号 判決 1988年5月18日
兵庫県加古郡稲美町六分一一一七八番地
原告
二見幾次
兵庫県加古川市木村字木寺五の二
被告
加古川税務署長
今井奈良治
右指定代理人
細井淳久
同
鳴海雅美
同
小西明
同
上山邦三
同
高岡泰好
同
山藤和男
同
大黒宏明
主文
一 本件訴えを却下する。
二 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実
第一申立
(原告)
一 原告が被告に対し昭和五一年一二月一四日付嘆願書により求めた行政処分に対し、被告の不作為が違法であることの確認を求める。
二 訴訟費用は、被告の負担とする。
との判決
(被告)
主文第一項同旨の判決
第二主張
(原告)
一 請求の原因
1 訴外政平健次は、兵庫県加古郡稲美町六分一字の上一一七八番の一四九の土地を、訴外宮本ふみ子は同所一一七八番の一四八の土地をそれぞれ所有していたが、訴外林義継が右両名から昭和四五年七月二日付売買契約書で右各土地を買い受け、分筆手続等を経たのち、その一部を訴外伊東繁ら数名の者に売り渡したところ、その譲渡所得金額が一四七八万九一五〇円となつた。
2 ところが原告は、右各土地の売買につき当初から立会人等として関与して来たために、右譲渡所得金額については便宜上自己の所得として、右林義継に代わり、昭和四八年分の所得税確定申告において、所得申告を行つた。
3 しかしその後、原告は真実に反した右申告を行つたことを深く反省し、被告に対し、昭和五一目一二月一四日付嘆願書でもつて、原告は右売買の立会人にすぎず、真実の売渡人は右林義継らであり、右譲渡所得金に対する課税処分は真実の売渡人である右林義継らに対し行われるべきであり、原告に対する課税処分は真実に反し違法であるから行わないようにされたい旨嘆願したが、被告は原告の真実を吐露した嘆願に対してもこれに沿った適切な行政処分を行わなかつた。
4 被告が原告の右嘆願に対し何ら適切な行政処分を行わなかつたのであるから、これが被告の真実の譲渡所得者に対してのみ課税すべき職務に違反し違法であることは明らかであり、原告は被告に対し右不作為の違法確認を求める。
(被告)
一 本案前の抗弁
行政事件訴訟法三条五項の規定は、不作為の違法確認を求めることができるのは、行政庁が法令に基づく申請に対して何らかの処分をなすべきにもかかわらず、これをなさない場合を要件としているところ、本訴請求の趣旨にいう嘆願は、何らの法令に基づく申請でもなく、また被告は、右嘆願書に対して処分をなすべき義務も負わない。
よって、本件訴えは、行政事件訴訟法三条五項に該当しない不適法なもので、却下を免れない。
二 請求の原因に対する答弁
請求の原因中、原告が被告に対して昭和五一年一二月一四日付の嘆願書により、訴外林義継に対して課税処分をなすべき旨を嘆願したことは認め、その余は争う。
第三証拠
証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりである。
理由
一 成立に争いがない甲第二号証によると、原告は被告に対し、昭和五一年一二月一四日付嘆願書により、訴外林義継らに対して課税処分を求めたことが認められるが、原告が右嘆願書により原告に対する課税をしないよう求めたことは認めることができない。
そして原告は右嘆願書に対する被告の不作為の違法確認を求めているところ、被告の主張するように、行政事件訴訟法三条五項の規定によれば、行政処分の不作為の違法確認の訴えは、行政庁において法令に基づく申請に対して何らかの処分又は裁決をなすべきであるにもかかわらず、これをしないことを要件としている。
しかるところ、右認定の原告の嘆願行為は被告の職権発動を促すにすぎないものと解されるばかりか、仮にそれが申請に価するとしても、かかる申請をなし得るとの法令上の規定、またかかる申請に基づき被告において課税処分その他何らかの処分、裁決をなすべき法令上の規定は存しない。
二 そうすると、原告の本件訴えは、その余の点を判断するまでもなく訴えの要件を欠き不適法であるので、これを却下し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 野田殷稔 裁判官 岡部崇明 裁判官 植野聡)